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第1部 一章【財前姉妹】その5 第二話 財前プロの初出勤

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-04-07 10:00:00

49.

第二話 財前プロの初出勤

 土曜日。今日はカオリが午前出勤の日である。そして、プロ雀士になってから初の出勤日でもあった。

「「カオリちゃん! プロ試験合格おめでとう!!」」

 出勤したらみんなから祝福された。時給も980円から1200円になるんだという。

「ありがとうございます。でも、なんだかまだ実感がないです。リーグ戦も始まってないし。私がプロ雀士かあ…… ウソみたい」

「カオリちゃんはプロだよ。なんかそう、オーラを感じるもの」

「あは、ありがとうございます」

(それはwomanのことかな? 勘のいい人にはわかるのかしら)

「じゃあさっそくだけどカオリさん本走頼めるかな」

「もちろんです!」

「ああ、今日からは財前プロか」

「やめてくださいよ店長。今まで通りカオリでいいですよ。それに財前プロだとマナミもだし」

「わかったよ。それじゃ1卓で立卓準備してください」

 そう言うと店長はゲームシートに時間と名前を記入し始めた。

 場決めの牌を引いてゲーム開始!

『ゲーム、スタート』

 自動卓がゲーム開始の音声を上げる。

「「よろしくお願いします!」」

 カオリは北家でスタート。

「お飲み物はよろしいですかー。みなさんお飲み物のご注文はよろしいですかー」そう聞きながら立番の店長が卓を回る。

「あ、ごめん、ケータイの充電お願い」

大体この時飲み物以外の注文が入ったりする。今来たばかりの人に食べ物の注文をされる時もある。外で食べてから来ればいいのに。その方が安く済むのにな。といつも思う。タバコの注文をされる時もあるが(それは買ってから来店してよね)と思う。そもそも私は買いに出れないし。年

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    56.第九話 テンマとユウ 大会本戦会場は少し遠かったがスタート時間が午後1時からという遅めの開始になっていたので、これ幸いとその日は早起きして上野からまず池袋へ行った。はっきり言って遠回りなのだが池袋をウロウロする時間はある。池袋はオタク女子の聖地だ。東京まで出るついでにとユウはオタクグッズ専門店を見に行ったのだ。 あらかじめ調べておいた駅から曲がる回数の少ないルートで迷わないように行こうと思っていたがどうやら出だしから地上にあがる出口を間違えたらしい。初っ端から時間をロスする。(あれえ、絶対ここじゃないな。どうしよう、わかんなくなってきた。他人に聞くのもなんだか恥ずかしいし、お巡りさんにも頼りたくない。オタク女子かあ。って目で見られくない。私は隠れオタクだから) ──── かなり道に迷ったがついに到着。ユウは店内に入ってすぐ店員さんに目的のグッズの売り場を聞くことにした。ここまで来たらもう聞くのは恥ずかしくない。  欲しかったものを買ったらすぐに退散した、本当はもっと見たいけど小腹も空いていたし時間も迫っていたしで仕方ない。 店員さんに駅までの最短距離を聞いて真っ直ぐに向かう。(ちょっとだけなら時間あるかな)そう思って駅ビル内の喫茶店でコーヒーと軽食を済ませることにした。(ふう、美味しかった。ごちそうさま) そろそろ時間ないな。と急いで出ようとしたその時、店内に知ってる顔を見つけた。「天馬くん!?」 そこにいたのは中学時代の同級生。泉天馬だった。◆◇◆◇ 僕は泉天馬。僕と佐藤ユウは中学時代の同級生で当時はとても仲良くしていたし、1年

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  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第伍話 オリジナル戦術書

    52.第伍話 オリジナル戦術書 その日、バイトから帰ってきたカオリは家に誰もいないことを確認するとキーホルダーをツンとつついた。「ねえwoman」《なんですか?》「マナミが伸び悩んでる感じがするんだけど、何かアドバイスできないかな」《ラシャの付喪神様は無言みたいですからね。ちょっと間違ってるとお知らせしてくれるだけで基本的にはマナミさん自身に任せてますよね》「何か効果的な練習メニューとかないの?」《そうですね、私なら……》「私なら?」《自分オリジナルの戦術書を作ります》「自分で?! そんなこと出来ないよ!! 未熟も未熟。私たちはまだ素人みたいなもんなのに!」《何言ってるんですかカオリ。あなたもマナミさんも今はもう競技団体に所属している、まごうことなきプロ雀士なんですよ。忘れたんですか?》「そ、それはそうだけどぉー」《やってみればカオリには出来るはずです。カオリは文章を書くのは得意じゃないですか。マナミさんにも書き方のコツを教えながら2人で作ってみたらいいんです。やり始めればきっと楽しいですよ。日記だってカオリは楽しそうによく書いてるじゃないですか》「例えばどんなことから書いたらいいかな」《そ……(あ、消えた) カオリは再びキーホルダーをツンとつつく。「で、例えばどんなことから書いたらいい?」《そう言うのはまず自分で考えるから意味があるんですよ、カオリ。でも、強いて言うならまずは基礎からじゃないですか? 私ならスタートは基礎から。確実で、それでいて出来ていない人もたくさん居そうな。そんな自分の中で一番気をつけてる『構え』から入るかもしれませんね》(ふむ、なるほど)「ありがとう、woman。マナミと一緒にちょっと考えてみる!」《これでマナミさんが一皮剥けるといいです

  • 【牌神話】〜麻雀少女激闘戦記〜   第1部 一章【財前姉妹】その5 第四話 人間読み

    51.第四話 人間読み その半荘は萬屋マサルのダントツだった。誰にも捲られることはないだろうという点差をつけてオーラスを迎えたマサル。そこに3着目につけている久本カズオがどう見ても2着すら捲らない安仕掛けで逃げを決めに来てた。 打点はおそらく2000点。あっても3900。満貫を狙えば2着を捲れるが、ラス目が千点差以内のすぐ近くにいるのでリーチ棒を出さない方針として考えた結果『ラス落ち回避のみを優先』とさせて安仕掛けで3着キープ狙いとなったのだ。 その時のカズオは(安いのは分かるように二色晒したからこれなら萬屋が放銃してくるな)とほくそ笑んでいた。 それを見たマサルはむしろカズオを徹底マークした。絶対にあがらせない。そう誓った。そして、長引いた末にラス目が追いついた。「リーチ!」 そこに対してマサルはカズオに現物の打⑦。「ロン!」 見事なメンタンピンだった。これをツモって裏乗せれば2着という仕上げ。「3900」「はい」「……2卓ラストです。優勝C席会社失礼しました。着順CDAです!」「2卓の皆様よりゲーム代いただきましたありがとうございます!」「「ありがとうございます!」」「それではゲームお待ちの2名様お待たせ致しました」 待ち席で待っていた人を卓にご案内して立番に戻るとカズオがマサルに質問してきた。「さっきのオーラス。僕の当たり牌持ってなかったんですか? 差し込みしてくると踏んだんですけど」「持ってたさ。いつでも差せた。4種類以上持ってたからどれかは当たりだっただろうな」「え? じゃ、じゃあなんで打ってくんないんですか」「態度が悪いからだ」「ええ?」「久本さんの考えていることはお見通しなんだよ。安い

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